文字について6

 古代文字で最も有名なエジプトの象形文字は独自に発明されたように思われているが、実はアイデアの模倣で作られたものである。紀元前3000年ごろにほとんど完成された形で突然出現している。エジプトはシュメールから1300キロメートルしか離れておらず、交易を通じた接触があった。シュメールでは楔形文字の遺物が出土しているが、エジプトではそのようなものは出土していない。数百万年も文字を持たずに暮らしてきた人類が、その長期間で見ればほとんど誤差といえる数世紀の間に複数の地域において文字を持ち始めたので、それそれの地域で文字が独自に発明されたとは考えにくく、先駆者がいて、それを模倣したと考えるのが妥当である。

 

文字を使える人と文字を使えない人

登場したばかりの文字の特徴

・複数の用法があって曖昧

・構造が複雑すぎて、発話を記述するには不完全

・使う人の層が限られていた(上級官吏や書記のみが扱えた)

・用途が限定されていた(例えばシュメール人が残した文書のほとんどが帳簿であった)

 

文字を早い時期に手にした社会は文字の曖昧性を減らそうとしていない。なぜなら用途が限定されていたので曖昧性を減らす必要がなかった。

 

文字を手にした社会

文字を発明したり、手にした社会は、いずれも複雑で集権化された社会で階層的な分化の進んだ社会だった。納税の記録や布告などを残すために文字が必要とされた。文字を書くことができたのは、余剰食糧により支えられた官吏だった。つまり、農耕社会では文字を持つ必要が生じたし、そのための官吏を養う余力があった。一方狩猟採集社会では文字を持つ必要がなかった。文字を借用することもなかったし、官吏を養う余力はなかった。