文字について3
古代メキシコの文字
シュメール人以外に文字を発明したことが確認されているのは、メキシコ南部のアメリカ先住民で、中米の文字は旧世界*1とは全く別に独自に生まれたと考えられている*2。
古代メキシコの文字は十数種類あるが、数字や暦の書き方が同じであり、同族関係にあると考えられている。どの種類についても部分的にしか解明されていない。これらの中で最も古い文字はメキシコ南部のサポテカ地方で紀元前600年ころに使用されていた文字だが、研究が進んでいるのはマヤ地方で使用されていた文字である。この文字では最も古い日付の記録が西暦292年である。
マヤの文字は旧大陸の文字とは別に考案され、全く異なる形をしているが、シュメール文字と基本的に似た原則に従い構成されている。表意的な記号と、表音的な記号の両方が含まれている。表意的な記号が同じ発音の抽象名詞を表すために使用されているのである。マヤの文字は子音一つと母音一つで構成し、一つの音節を表している。マヤの音節文字はその音節で始まる表意文字から派生したものである。
シュメール文字とマヤ文字はそれぞれ独立に考案され、系統関係ないが、基本的に似た原則に従って構成されている。
エジプト、中国、イースター島の例を除いて、文字はシュメール文字かマヤ文字から派生もしくは、改良して生まれたものであると考えられる。文字を発明するのは極めて困難なため、独自に発明するよりも、シュメール文字やマヤ文字などの他の文字を拝借すれば事足りたわけである。
文字の発達にはいくつかの社会的要素が不可欠だった。文字がその社会にとって有用でなければならないし、また書記を食べさせるだけの生産性のある社会でなければならない。この条件を満たしていた社会はシュメールやマヤ以外にもあった。古代インド、クレタ島、エチオピア先住民社会などがそうである。ただシュメールやマヤが先行していたため、他の社会では自ら発明する必要がなかった。
「銃・病原菌・鉄」第12章から